アムベース>

ポケットモンスター光


アルセウスと真なる宝玉



10 ポケモントレーナーたち

 空中要塞の事件から数日後、アムたちはオルソーシティに戻っていた。警察から事件のことを事細かに聞かれ、調書が出来上がるまでに丸一日はかかった。ポケモンセンターに戻ったころには疲労も限界に達していて、アムは深い眠りに落ちた。久しぶりに何も考えず、ゆっくりと寝ることができた。ヒカリをはじめとした手持ちのポケモンたちも十分に休ませることができた。
 街は落ち着きを取り戻していた。市長であるゴルドレイが行方不明になったこと。オルソー城が崩壊し、市街中心部も壊滅的であり、再建の見込みがないことなど、市民にとっては不安なことばかりのはずだった。そんな素振りも見せず、人々は力強く生きようとしている。
 ユウマとミナとともにポケモンセンターで朝食を済ませたころ、スレイとデネブが訊ねてきた。
「すっかり元気になったようだな」
 スレイがアムの向かいに座った。
「スレイさんも。デネブさんも」
 デネブは無言でスレイの隣りに腰を下ろした。机の上にいたヒカリの頭をなでてくれる。
「ポケモンレンジャーの、ハーブといったか。彼女は?」
「事件のことを報告するためにレンジャー本部へ行ったわ」
 デネブの問いにはミナが答えた。
「そうか。ゆっくりしてもいられないんだな」
「お前たちはこれからどうするんだ。やはり旅を続けるのか」
 スレイに聞かれ、アムたちは全員頷いた。アムはもともと手持ちポケモンの強化のためにバトルエリアを旅していた。今回の事件は苦しいものだったが、得るものも多かった。アムの中には新しい戦い方、チーム構成がおぼろげに生まれつつあった。それはユウマも同様らしく、彼はすぐに旅立ちたそうに、すでに荷物をまとめてあった。
「残念だな」スレイがアムの目をまっすぐに見つめた。「お前たちは優秀なトレーナーだ。オルソーシティの復興にも立ち会ってもらいたかったが」
「スレイさんもデネブさんも残るんですね」
「ああ」スレイは頷いた。「おれたちはゴルドレイ様の側近だった。後始末ぐらいはつけないとな。すべてが済んだらまた旅に出るつもりだが、当分先だな」
「私はオルソーシティのために働く。これでも王族のはしくれだ。責任は取るつもりだ」
 デネブの口調は感慨深そうだ。
「やることは山ほどあるが、ひとつずつ片付けていくさ。バクも手伝ってくれると言っている。この街には優秀なトレーナーとポケモンが多い。彼らと連携してやっていくつもりだ」
 スレイの顔を見て、アムは思いついて話しかけた。
「そうだ、スレイさん。聞きたいことがあったんだ」
「どうした」
「おれもガブリアスを持っているんですけど、もっと強くしたいんです。スレイさんのガブリアスみたいに強化できるような場所って知っていますか?」
「なんだ。ガブリアスを育てたいのか。ならいい場所がある。素早さと攻撃を重点的に育てられるぞ」
 スレイはアムにその場所を教えてくれた。アムの次の目的地が決まった。
 スレイとデネブは帰っていった。今日もオルソーシティ復興のために忙しく駆け回るようだ。
 アムたちも旅立ちの準備を済ませて、ポケモンセンターを後にした。せっかちなユウマはさっさと出発したがったが、アムがなだめた。出発するときは三人同時に行こうと提案して、しぶしぶ納得させたのだった。街を出て、小高い丘に上る。道が三方向に分かれている。
 オルソーシティを見下ろすことができた。街のランドマークだった城が崩壊し、中心部が黒々とした廃墟になってしまっているが、全体としては美しい街であることに変わりがない。爽やかな風がアムたちの足元を通り過ぎ、ゆっくりと街のほうへ吹き下りていった。アムの足元にはヒカリがいる。
「じゃあ、アム、ユウマ。ここでお別れね。わたしはハーブさんを追ってレンジャー本部に行くわ」
「ミナ。またどこかで会おう。元気でね」
「ありがとう、アム。ユウマも元気でね」
 ユウマは言葉にはせずに頷いただけだった。ミナは微笑している。付き合いは長い。こういうとき、ユウマは照れを隠しているだけなのだということを知っている。ミナは歩き去っていった。
「じゃあ、おれも行こうかな」
「アム」
「どうしたの、ユウマ」
「お前、ガブリアスを育てると言っていたな。新しいチームを作るのか」
「まあね。バトルフロンティアにでも挑戦しながら、新しい戦力を模索していこうと思っているんだ。まずはガブリアス。全国大会にも出たいしね。ユウマはどうするの?」
「ゴルドレイが戦いの中で言っていたこと、覚えているか? トリプルバトルが普及している地方があると言っていた」
 そういえばそんなことを言っていたような気がする。
「その地方にでも行ってみようかと思う。トリプルバトルはおれにとって衝撃だった。ああいう戦いを経験しておくのも悪くない」
 ユウマはいろいろと考えている。自分も負けていられない、とアムは思う。
「きっと見たこともないポケモンもたくさんいるんだろうね。おれもいつか行きたいな」
「来い、アム。おれは力をつけている。ふたりで最高のバトルをするためにな」
 ユウマは片手を上げて去っていった。次に会うとき、彼はどれだけ強くなっているだろうか。どういうバトルができるのだろうか。考えただけで今から胸が高鳴った。
「行こう、ヒカリ。おれたちも、もっと強くなろう」
 ポケモンとともに歩み、ともにいろいろなものを見て、触れて、体験していく。絆はそうして生まれていく。時間はたっぷりとある。世界は広すぎるほどだ。まだまだ知らないことが多すぎる。見たこともない土地があり、見たこともないポケモンがいる。アムはその世界を見渡すために、新しい一歩を踏みだした。

          完



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